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■「ビリーバーズ」
監督:城定秀夫
出演:磯村勇斗、北村優衣
2022年製作/118分/R15+/日本
配給:クロックワークス、SPOTTED PRODUCTIONS
【「大義」と「個人」の間で揺れる事を拒否した人間の恐ろしさ】
どんな映画だった?と聞かれると、どんな角度から答えて良いのか迷う作品ではありますが、この部活内で書くならば私は「城定監督流の人間映画だと思う」と答えます。
恐怖と笑い
理性と欲望
頭の声と心の声
人間と動物
島の中と島の外
洗脳と非洗脳
この映画にはとにかく沢山の境界線が表現されています。
そして、その境界線に対して信仰心で対処していく3人の姿が怖くもあり、滑稽でもあり、人間らしいとも思う。
私はとても楽しめました。
◆ストーリー
とある孤島で生活をする二人の男と一人の女。
ニコニコ人生センターという宗教的な団体に所属している3人は、オペレーター、副議長、議長と互いに呼び合い、無人島での共同生活を送っていた。
瞑想、昨晩見た夢の報告、テレパシーの実験、といったメールで送られてくる不可解な指令”孤島のプログラム”を実行し、時折送られてくる僅かな食料でギリギリの生活を保つ日々。
これらは俗世の汚れを浄化し”安住の地”へ出発する為の修行なのだ。だが、そんな日々のほんのわずかなほころびから、3人は徐々に互いの本能と欲望を暴き出してゆき、、、。
この映画、面白かったのでお薦めしたいのですが、誰にでも紹介できるかと言われると少し違うのかな。まずR15+であることをお忘れなく。
後半の性描写はかなり刺激的だと思いますし、明らかなセクハラ行為が描かれる場面もあるので女性は不快に感じる人もいるかもしれません。
でも、日活ロマンポルノの様に文脈から切り離された性描写が突然現れたり、見せ場として過激な性描写が登場するわけでもないので、私は気分が悪くなるような感じではなかったです。
この辺りを踏まえてお薦めするなら、まずはある程度年齢を重ねた磯村勇斗さんのファンの方かな。
今回の演技もとても素敵で、これからもずっと様々な役で観続けたい俳優さんだと、改めて思いました。
今後の出演作もさらに期待できますし、初主演作品として「ビリーバーズ」を選んだ磯村さん自体にも興味が湧きました。
爽やかイケメンな磯村君が好き♡という感じの方も身構えずに是非観てみて欲しいです。(ただし、今回は爽やかイケメン役では決してないことだけは念押ししておきます!)
あとは「この映画はラブストーリーだね、こっちはホラー映画だね」と簡単に分類せず「なにこれ?何だった??何を観た???」という鑑賞後感を楽しめる方にもお薦めです。
ジャンルボックスに整理整頓出来ないけど、印象的に感じるシーンがいくつもあると思うのでそのシーンを反芻しながら「何を観たのか?」を考えるのが楽しい作品なんですよ。
さらには城定監督に注目している方は、この作品絶対見逃せないと思います!
やっぱりポルノ映画でキャリアを積んだ監督なので、北村優衣さんの撮り方が良かったですね。生身の人間っぽいというか、全裸である事の違和感と解放感を感じられるのも新鮮でした。
日本の男性監督は性表現をどうするか、というのを課題に感じている方が多いなと思うのですが城定監督ならではのあっけらかんとした性表現は清々しくもあると感じます。
一般的に女優さんの性描写にはかなり気をつかう必要があると思うのですが、もちろん気配りはありながらも伸び伸びと北村さんが演じられていたので、今回も城定節が十分に発揮されていると思います。
何と言ってもオーディションで選ばれたという北村優衣さんの演技が本当に凄いんですよ。
脚本の段階で濡れ場の多さも分かっていてオーディションを受けたという事なので、腹が据わっているというかその態度が演技を通して伝わってきます。
誰かを誘って観み行く映画、というよりも映画好きな友人に「面白いから観てみてよ。観たら誰かと話したくなる映画だからさ、お茶しよ!」って言いたくなる映画ですね。
☆以下内容に触れるのでご注意を☆
私は3人が信仰している宗教の言葉”「みんな」のために頑張りましょう”が”「みんな」と同じであるために頑張りましょう”ではないか、と感じました。
とにかく3人は頑張っています。
インフラの整っていない孤島で、僅かな食料と共に、お風呂もなく、娯楽もない日常を過ごしている。
客観的に見れば毎日良く分からないプログラムをこなして、謎の箱を運んでいるだけです。
わたし達から見ると、こんな生活では気が狂ってしまいそうですが、3人を支えているのは信仰心です。
同じ宗教に入信している「みんな」と同じで居るためにはこの信仰心を高めていかなければならない、「先生」から救いを得るためには「みんな」と同じコミュニティに居なければならない。
このコミュニティ以外は汚れた俗世である。
だから「みんな」のために頑張りましょう。
「みんな」と同じであるために頑張りましょう。
こうやって強固なコミュニティが形成されていくのかな、と感じました。
ここに私は宗教団体と新左翼の雰囲気を感じたのですが、修行や暴力やあからさまな自由の規制が無いだけで、資本主義の私たちは「お金」という宗教に入信しているとも言える。
それに気づくと3人を俯瞰して見て滑稽だな、と笑ってばかりではいられなくなる怖さがあります。
でも【議長】が【副議長】に陰部を咥えるように強要する場面はあからさまなセクハラ行為で、しかも【副議長】が感じる嫌悪感を信仰心を引き合いに出して自制させようとする。
その後も愛だなんだと言い出す【議長】の論理がメチャクチャすぎて気持ちが悪いんですよ。
そして戒律や大義によって個人の感情を押さえつけようとすると、おかしなことになる。これを体現しているのがあの時の【オペレーター】の全力の応援だと思いました。
だって狂ってるでしょ、あの場面。
オペレーターは心から「頑張れー!頑張れー!!」と大声を出して2人を応援している。あの空間はあまりに奇妙で異様です。でも怖いと同時に笑えてしまうシーンでもありますよね。
異様と言えば、副議長がオペレーターに「ふたりだけの秘密にしてくださいね」と耳元で囁いたあとにオペレーターが「提議しまーーーす!!!」と叫ぶところも珍妙だったなぁ。
あの豹変っぷりが面白くもあり、怖くもあるし、笑えてしまう。
でもこの恐怖と笑いがグラグラしながらも絶妙にバランスが取られているのがこの映画の興味深さだと思います。「笑い」って本当に不思議で、奥深いものですよね。
大きな波のシーンも印象的でした。
あのカットの後、トラックのカットに変わってオペレーターが「あれ?」と言う。
あの一言で記憶が飛んでいるのが分かるのですが、場面の切り替わりで時間がジャンプするのが当たり前な映画の中で「あれ?」の一言でシーンが切り替わることの違和感を再認識できました。
あとね、表現の面白さでは、浜辺で【副議長】と【オペレーター】の濡れ場が映っていてそのままカメラを横に動かしていくと岩場に立っている幻想のお母さんととオペレーターが話しているシーン。
なんとあそこはカットを割っていないんですって!
つまり、オペレーターの磯村さんは最初裸で濡れ場を演じていて画面から外れた瞬間に走りながら服を着て、髪と息を整えて「母さん」ってセリフを言っているみたいです。
てっきり技術的な解決がされているかと思ったのに、必死にダッシュして繋げるなんて、、、おもしろーーーい!
そうゆう挑戦ってカメラの裏側はバタバタするけど現場も盛り上がって良いですよね。
もちろん城定監督はただ面白いから編集でつながずにワンカットで撮ったわけではないとは思いますが、そうゆうチャレンジは現場も絆も深めるし、巡り巡って作品の質を上げるように感じます。
今のはちょっと余談ですが、様々な要素を含んでいるこの作品は観た人それぞれに印象的なシーンがあると思うので、そのシーンについて語るのが楽しそうだな、と思いました。
私もまだまだ話したい事はありますが、どんどんレビューではなくなっていくと思うのでこの辺りにしようかな。
「ビリーバーズ」を観て城定監督、磯村勇斗さん、北村優衣さん、宇野祥平さんの次回作も楽しみになりました!