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真っ黒なフライヤーには空中に浮かぶ馬。
キャッチコピーは「最悪の奇跡が起こる。」
ナニコレ⁉気になる~!と、早速観たい作品リストに加えた「NOPE ノープ」。実は映画館に行く当日まで、いや劇場内の客席で本編上映を待ちながら近日公開作品の予告編を観ている時でさえも「怖いのかな、、、大丈夫かな、、、」とドキドキしていました。
ホラーはすっごく苦手なんです。
でも本編が始まったら、そんな不安は吹っ飛んでしまいました。 まさか、こんなに味わい深い映画だったとは!
ジョーダン・ピール監督の表現や狙いが物語や映像の中に幾重にも重ねられていて、恐らく私が思い及ばない箇所にも何かの示唆が含まれていたり、象徴として映画内に招かれている物があるのだと思います。
でも難しい映画ではないんですよ。
ゾゾゾ~ともするし
ビクゥゥっともなる。
なにこれ、、、と驚愕するし
笑える箇所もある。
一つのジャンルではとらえる事の出来ない映画が「NOPE ノープ」なので、ホラーかな、怖いんだろうな。やっぱり観るの止めよう、、、だなんて思わなくて本当に良かったです!
監督は観客にスペクタクルを見せようと様々な工夫を凝らしているので、鑑賞中はそれを素直に受け取りながら物語を楽しみ、鑑賞後に印象に残ったシーンをふと思い出して一体何を観たのか考えたくなる。
監督は観客にスペクタクルを見せようと様々な工夫を凝らしているので、鑑賞中はそれを素直に受け取りながら物語を楽しみ、鑑賞後に印象に残ったシーンをふと思い出して一体何を観たのか考えたくなる。
そんな作品なのかな、と思います。
作品の作り上、事前情報を入れない方が絶対に楽しめると思うので、内容に触れない前半ではフワフワとしか書けなくてスミマセン。。
もし少しでも観てみようかな、、、と思う方は「☆以下内容に触れるのでご注意を☆」の後は読まずにそっとこのレビュー記事を閉じてくださいね 笑
ネット上には「考察」「解説」レビューも沢山あると思います。素直に楽しむためにも、そうゆう前知識は全く必要ない作品だと思うので「NOPE」を観て自分が何を感じるのか、それも含めて楽しんで頂ければと思います!
■NOPE/ノープ
2022年製作/131分/アメリカ
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー
原題:Nope
配給:東宝東和
◇ストーリー
田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。
ある日、長男OJが家業をサボって町に繰り出す妹エメラルドにうんざりしていたところ、突然空から異物が降り注いでくる。
その謎の現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親が息絶えていた。長男は、父親の不可解な死の直前に、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃したことを妹に明かす。
兄妹はその飛行物体の存在を収めた動画を撮影すればネットでバズるはずだと、飛行物体の撮影に挑むが、そんな彼らに想像を絶する事態が待ち受けていた。
◇
☆以下内容に触れるのでご注意を☆
ジュープの息子たちが宇宙人の着ぐるみでOJの農場に忍び込んでいるシーン(あの背後の映り込みとかが本当に苦手なんですよっ!)やカメラにカマキリが付くシーンによって、私は完全に宇宙人の登場を期待していました。
ところがOJが「あれは違う。宇宙船じゃない!」と叫び、人々を飲み込んだ”あれ”は不要な物を吐き出してくる。
OJの家の上空で大量の血液と不純物を排出するシーンは本当に悲惨で恐ろしかったですが、窓から見える血の赤や、物が落下してくる音が鳴りやまない恐怖、敵に閉じ込められたようなひっ迫感の演出が素晴らしかったですよね。(怖いけど、、、!)
その様子を観た時に、空中に浮かぶ物体はてっきり人間の知能を越えた、進化した生物が作った乗り物だと思っていた私は驚きました。
”あれ”は宇宙船なんかじゃない。
何だか分からないけど生き物で、進化した生物どころかむしろ”野生の”動物じゃないか!
銀色の円盤で動きが早く、中には進化した生物が乗っている=未確認飛行物体
わたしのUFOのイメージはこんなステレオタイプな物でしかありませんでした。
ちょっと恥ずかしくなるような思い込み、、、!
自分の中で固定化されていたイメージを覆らされるような、そんな衝撃も受けた作品です。
形態を変化させたり、最後に爆発してしまう”Gジャン”は往年のウルトラマンとか
エヴァンゲリオンを彷彿とさせるような、いわるゆ「怪獣映画」で登場する「怪獣」なのですが、これを怪獣映画と表現して良いのかもちょっと良く分かりませんでした。
なぜならこの作品は今まで無視されてきた人々の物語でもあり、そこが魅力的だとも思えるからです。
主人公のOJは父が経営している牧場を継いでいて、馬の調教が仕事です。毎日雑用に追われているのに、父が突然亡くなったことで牧場の経営はガタガタ。
それでも毎日を静かに、着実に過ごしています。
物語の前半で馬のラッキーと共にスタジオ撮影に挑むOJが登場しますが、OJは決してカメラの前に立つことはありません。
いつも脚光を浴びるのはスター俳優たちだけです。
ジョーダン・ピールはインタビューで映画のルーツとなった16枚の連続写真に触れていました。それは本編の中にも登場する写真で「動物の運動」と名付けられた馬が走る連続写真です。
この連続写真をきっかけにトーマス・エジソンが映画を発明したと言われますが、この写真を撮影した写真家エドワード・マイブリッジの名前や馬主の名前は記録されているのに、馬に乗った黒人騎手の名は残っていません。
この黒人騎手は”忘れ去られた人”です。
なぜこんな事になってしまうのか?
「有色人種」という言葉に象徴されるような人種の細分化による優劣思想がもたらした結果なのでしょうか?
近年、名前のない黒人騎士のように”無視されてきた人””忘れ去られてきた人”は少しずつ発見されるようになってきました。
それは偉業を成し遂げたとしても人種や性別という、行いそのものとは無関係の部分で無視され続けた人々だけではなく、固定化されたイメージの中で描かれて来た人々という意味でもあります。
例えば黒人もそうですね。
黒人と言えば麻薬密売人や犯罪者役ばかりキャスティングされる、という現状において大きな製作費がかけられた「NOPE」に黒人であるダニエル・カルーヤが主演するのも”無視されて来た人”の復活を示しているのかもしれません。
今回の様に同性愛がメインテーマにならず、設定としてサラリと描かれるようになったのも、すべて”忘れ去られて来た人々”への目配せのようにも思えるのです。
スティーブン・ユァン演じるリッキー・”ジュープ”・パクも複雑な人物像として描かれていました。彼の運命を決定づけたゴーディーの事件。
血まみれのゴーディがこっちを見ていると分かった瞬間の恐怖ったらありません。
ゴーディはゆっくりとジュープの隠れているテーブルに近づいてきます。テーブルクロスの下に伸びてくる血に染まったゴーディの手。
もう少しでジュープとゴーディが合わさりグータッチする、、、という瞬間にゴーディは銃殺されてしまいます。
あまりに凄惨なシーンですが、ゴーディがジュープを襲わなかったのはアジア人の子ども="見世物”としてステージに立たされている仲間だとジュープが認識していたからなのか、、、そんな風にも思えます。
ところが、そんなジュープもあの凄惨な事件を使って商売をしたり、ファンに忘れ去られないように必死です。
さらに忘れ去られた”元子役”としての呪縛から逃れるために、もう一度名前を取り戻す為に、ジュープは宙に浮かぶ”Gジャン”を見世物にしようとするのです。
ゴーティの怒りの対象にならなかったジュープ少年ですが、Gジャンからは逃げられず喰われてしまう、、、。一度見世物になってしまった彼の人生の言いようのない苦さが後味悪く効いてきます。
こんな風に観る人それぞれに気になる箇所があり、物語全体に仕掛けがあるのが「NOPE ノープ」なので、きっと「考察」が好きな方はもっと細かな部分に気づくはずです。
気になる方は色々なレビューを読見比べてみるのも楽しいのかもしれませんね!
最後に私がとっても気に入った”スカイダンサー”についても少し。
広大な砂漠に揺れるカラフルなスカイダンサーはコミカルで美しかったですね。予告でも”スカイダンサー”に惹かれた部分もあったりして、、。
本当にひとつひとつのシーンに画面自体の面白さもあって、ジョーダン・ピールの抜かりなさにワクワクした作品でもありました。
ジョーダン・ピール。
次の作品も絶対観よ~!と思える監督に出会えました。それもまた、最高の映画体験だと思います。