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■「キャメラを止めるな!」
監督:ミシェル・アザナビシウス
出演:ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ
2022年製作/112分/フランス
配給:ギャガ
【入れ子がさらに入れ子になるマトリョーシカ映画】
「本物が欲しいんだよ!」
「この映画をぶち壊している!お前が最低な女優だからだ!!」
、、、来ましたーー!
これこれ、オリジナルの「カメラは止めるな!」と同じ始まり。最初はオリジナルとの相違点を追いかけてしまいましたが、徐々に「キャメラを止めるな!」の世界観に入り込んでいく。そんな不思議な作品です。
◆ストーリー
とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずにテイクは31テイクに達する。
そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲い掛かる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。
”30分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”…を撮った「フランスの」ヤツらの話。
初めて「キャメラを止めるな!」の予告を観た時は「何でフランスで!?」と思いましたが、極めて日本的な「カメラを止めるな!」をフランスでリメイクする、という一番大きなアイディアがこの映画の入れ子構造を包み込む外枠になっています。
そこがすごく面白い。
できればオリジナルの「カメラを止めるな!」を観てからの方が、「キャメラを止めるな!」のより一層複雑になった構造を楽しめると思いますが、ストーリーを楽しむならリメイク版から観ても、全く問題なく楽しめます。
それにやっぱり「映画をつくる」映画は最高なんですよね~。
私は大好きなジャンルです。なので、このジャンルや題材が好きな方は是非観て欲しい!
劇中劇がグダグダになればなるほど映画自体の求心力が高まっていく様をありありと感じることが出来ます。
あとはB級映画好きの方にもお薦めです。「カメラを止めるな!」は映画学校の卒業制作として作られた映画である事、監督も出演者も無名で予算が付かず手弁当状態である事から
B級映画としてどう面白く創るのかという発想がなされた映画ですが、「キャメラを止めるな!」はアカデミー賞受賞監督の作品ですからね。
俳優さん達も豪華なので、実際にはどんな機材でも使える環境が整っていながら、わざとB級映画を作るという羨ましすぎる状況ですが、それがまた面白いんですよ。
私は「キャメラを止めるな!」俳優陣の活躍を知らないので「え?何でこの人が日本のB級ゾンビ映画のリメイク作品に出演するの⁉」という意外性を感じることが出来ないのが悔しいですが、きっと本国フランスの人からすれば、配役も笑どころなんだろうなぁ。
”アカデミー賞で監督賞を受賞した監督が、有名俳優を使って日本の小さな映画をリメイクする”もうこれだけでフランスでは「何それ?何で??」と話題になるのではないかしら。
この辺りの雰囲気を想像すると、「キャメラを止めるな!」がカンヌ国際映画祭のオープニング作品に選ばれた理由も、上映後に会場が笑いに包まれてお祭りを盛り上げるのに一役かったのも分かるような気がします。
「キャメラを止めるな!」やっぱり面白い作品でしたね。
☆以下内容に触れるのでご注意を☆
リメイクを作るのって、とっても繊細な作業だと思います。
どこまでオリジナルを活かして、どこから自分の色を入れていくのか。これは誰もが悩む難題だと思いますが、大事なのはそもそもなぜリメイクを作るのか。この一点のようにも思えます。
その「Why?」が明確であるからこそ、オリジナルの活かし方や変え方が決まる。
私はそんな風に考えています。
例えばミシェル・アザナビシウス監督は自分に「アカデミー賞受賞監督」という冠が付いて回るのを自覚しているからこそ(フランス映画界には成瀬、小津、黒澤という日本三大巨匠映画監督の絶大なファンがいる事も知りつつ、自虐的な意味ではなく事実として)極東に位置する小国日本で話題となった「カメラを止めるな!」をリメイクする意味を問うたのではなかと思うのです。
だからこそ売れっ子俳優をキャスティングし、潤沢な製作費で映画製作が可能であるにも関わらずわざわざB級映画を作り、劇中劇はどんどん”駄作”へと向かっていく。
日本からの「出来るだけオリジナルに忠実に」という要望は劇中劇にも作品自体にも縛りをつくっています。
さらに劇中劇には「役名を日本名のままで」という訳の分からない縛りまで加えられて、どんどんピンチに追い込まれていきます。
フランス語で会話しているのに急に「ナツミー!」とか言い出したら笑っちゃいますよね。
「なんじゃそりゃ~」です。あの設定大好き 笑
それに”どんぐりさん”こと竹原芳子さんの登場も良かったです!
最後の「まぁこんなもんやろ」の一言は完全に映画製作の”外の人”のセリフです。そんな一言では片付かないあれやこれやが現場には詰まっている。
何度も何度もピンチが降りかかり
予定はどんどん変更され
これでもかと言う程に散々走らされる
でもそうこうするうちに、バラバラだった現場の結束力は強まっていきます。とにかく最後までやりきる事。一人一人がこのチームの一員であるという自覚。やってやろう!という気迫。
その全てが最後の肩車のシーンに集約されて行きます
そして、それを実際にワンカットで撮り成功させた「One Cut of the Dead」を内包する「カメラを止めるな!」のアイディア、日本で話題になった「One Cut of the Dead」をそのままフランスでリメイク制作したら、裏側が同じ状況になっていく「キャメラを止めるな!」。
さらに「キャメラを止めるな!」はミシェル・アザナビシウス監督の奥さんがロマン・デュリス演じる監督の奥さん役を、実の娘さんが監督の娘役を演じています。
これがまた面白い!
だって松本白鷗さん、松本幸四郎さん、松たか子さんが実際の親子、兄妹関係で出てきたら面白いじゃないですか。
「キャメラを止めるな!」はきっとこうゆう様々なシャレを利かせた作品なのだと思います。
映画作りって本当に大変なんですよね。でもその分、あの達成感はどんな経験にも勝ります。
私も19歳の夏に撮った自主制作映画の記憶は今でも鮮明に覚えています。様々なピンチに襲われ、全員がフラフラになりながら撮り上げたあの作品。
駄作か傑作かなんて考える余裕はありませんでした。
全員の苦労に報いるためには、とにかく最後までやりきる事。完成させて上映会に間に合わせる事。とにかく全力でやること。ただただ、それだけでした。
「キャメラを止めるな!」はあの時の記憶を鮮明に蘇らせる、最高の作品でした。