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■「カメラを止めるな!」
監督:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚
2017年製作/96分/日本
配給:アスミック・エース、ENBUゼミナール
【映画愛溢れるゾンビお仕事映画】
今から5年前、ちょうど育休中だった私は朝の情報番組で「カメラを止めるな!」が話題になっていたのを覚えています。
へー、邦画がこんなに話題になるなんて珍しいな~、、、なんて思っていましたが、それもそのはず。
予算300万(!!)という超、超低予算の映画が最終的には興行収入31億円という大ヒットになったのですから!
そして2017年11月の公開当初はたった2館での上映が、口コミによって東宝系の映画館にもかかり、翌年の夏には全国での上映館が100館を越えていました。
これぞまさに話題が話題を呼ぶ仕組みが出来上がっています。
もちろん内容も面白いんです!でも下手に書くとネタバレになりますから、前半部では周辺情報ばっかりお届けしますね 笑
そもそもこの映画は映画と演劇の学校ENBUゼミナールが、商業デビューしていない注目の監督と世に出たい俳優たちを集め、ワークショップを経て映画制作を行う企画「ENBUゼミナール・シネマプロジェクト」から誕生した作品です。
だから有名な俳優さんも出ていないし、作品の規模も小さめ。
でもこのプロジェクトを足掛かりに商業作品デビューした監督もいるんですよ。
「カメラを止めるな!」はこの低予算と俳優の無名性を十分に活かした(むしろ逆手に取った)作品ではないかと思います。
なるほど!こんな手もあるんだ!!と作品の構造にもワクワクしました。
ストーリー:とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画の撮影をしていたが、そこへ本物のゾンビが襲来。ディレクターの日暮は大喜びで撮影を続けるが、撮影隊の面々は次々とゾンビ化していき……。
「”37分ワンシーンワンカットのゾンビサバイバル映画”を撮った人々」の話。
すごく単純なストーリーなのですが、書くのが難しいんです。ですが、調べ過ぎずに是非観てみてください。
まずこの映画をお薦めしたいのは、好きなことを仕事にした人ですね。
自分のコントロール下で好きな事を仕事に出来れば一番楽しいのだと思いますが、どうしてもそうならないのが仕事です。
この映画では外からの圧力に日和っていく苦しさと、それを「えーーーい!」と放り投げる爽快感がありますよ。
あとはチームで何かを成し遂げた記憶がある人。
なんでも良いと思います。部活でも、イベントでも、仕事でも、趣味でも良くて、トラブルを抱えながらも何かを完成させたことがある人はこの映画をみたら熱くなること間違いなし!
さらにB級映画好きな人は絶対見逃せない作品です。
第一部の絶妙なB級感 笑
ここにも仕掛けがあるのですがB級映画好きなら第一部から思いっきり楽しめると思います。
最後に映画を作った事がある人!
これはもう、絶対楽しめること間違いないですね。
最終的に37分ワンシーンワンカットのゾンビサバイバル映画を観たら泣けると思います 笑
だってめちゃくちゃ大変なことしてるってわかるから。
監督が「OK!」と言った後の現場は歓喜の渦だったのではないかなぁ。この日の打ち上げは相当盛り上がるはずです。
お!面白そうだね~と思った方は、Netflixで配信中なので是非観てみてくださいね。(前情報を入れずに観る事をお薦めしますよ♪)
☆以下内容に触れるのでご注意を☆
どうでしたか?
この作品の構造、面白いと感じたでしょうか??
いや、構造を面白がる人ばかりだとは思わないので、この質問は野暮ですね。
でも構造うんぬんに限らず、楽しめた方は結構いるのではないかしら?なんて思っています。
私はこの映画が37分ワンシーンワンカットのゾンビサバイバル映画「One Cut of the Dead」が流れる第一部。その映画の誕生物語が描かれる第二部。映画の裏側が明かされる第三部。
という構成から成っていることを知らずに観たので、まんまと監督の意図に乗せられて楽しみました。
「One Cut of the Dead」で感じる間合いの違和感、セリフの違和感、ストーリーの違和感。第一部はいくつもの違和感を抱えたまま終わります。
最後に主人公の女の子が血で書かれた星マークの上に立ってこっちを見上げるカットを観ても、本当にワンシーンワンカットなんだなぁ、凄いなぁ、とは思いますがどうにも様々な違和感が拭えませんでした。
でも第三部では最初に感じた違和感が全て回収されて行きます。
だって、最初に監督が主演の女の子に「顔だよ顔!」「お前の人生が嘘なんだよ」と怒鳴るシーンからしてもう見え方が変わりますからね。
この映画の楽しさは、マジックショーと同じだと思いました。
最初は種も仕掛けのありませんよ~と言われて見始める。すっかり騙された後に、実はこんな種と仕掛けがありました、と裏側を見せられます。
そうすると、観客はそこで初めて自分が最初から騙されていたことに気づくわけです。
手品師は自分用と観客用に別々の筋書きを書いた物語を持っている。マジックショーが始まった時から、私たちは観客用に用意されたストーリーの扉を開けて進んでいるんです。
そして全体の筋書きが分かっていないから種にも仕掛けにも気づくことが出来ない。これは私がマジシャンもストーリーテラーなんだなと感じる部分です。
「カメラを止めるな!」も同じですよね。
物語が進むごとに「実は、、、」「実は、、、」と種を明かされる。そして、フレームの外側を見せられていくわけです。
自分が小さなフレームで切り取られた物語の一部しか見えていなかったことに気づき、視野が広くなっていく感覚を得る。
ここにこの作品のカタルシスが存在していると感じました。
そして「カメラを止めるな!」の場合は、種や仕掛けが明かされた先にあるのが「チームで何かを作るために必要な情熱」とか「結束」とか「家族の絆」という普遍的な物だった、というのも人気になった秘密のような気がします。
さらに涼しいテレビ局でモニター越しに「One Cut of the Dead」を観ていたディレクターどんぐりさんやその部下たちは知らない、伝わらない現場での情熱を私たちは知っているんだぞ!という秘密の契約を交わす作りも面白かったです。
私はどんどん観客を巻き込んでいく「カメラを止めるな!」に文字通り巻き込まれて楽しい映画体験ができました!
第三部で最後に主人公の女の子が血で書かれた星マークの上に立ってこっちを見上げるカットを観た時には「おっしゃ!やった!!OK!!」っとやり切った感がありましたからね。
第一部で観た時とは全然違う。すっかり製作者側と共犯関係になる”良い”観客になっていたと思います。