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細胞分裂とその限界についての質問がありましたので、細胞分裂と幹細胞生物学のお勉強コンテンツをお届けします。
無駄に細かくなってしまうかもしれませんが、サイエンスオタクの性としてご容赦ください。
Q.細胞分裂の回数には上限があるから、レチノールやレーザーなどの機械を使った肌治療や肌管理は逆に肌の老化を進める、使ったあとはいいかもしれないけれど、上限に早くに達してしまって細胞老化、成長停止状態になり細胞死するから、数年、十数年、何十年か経ったあとには肌が一気に老化する、気がついたら急に肌老化がひどくなり浦島太郎状態になる。
と話題になっていたのですが、パルミチン酸レチノールやプロピオン酸レチノールなどのレチノール誘導体もあまり良くないのでしょうか?
朝夜使用を推奨しているものを数年前から使用していました。
ヘイフリック限界
細胞分裂の回数の限界のことをヘイフリック限界といって、ヒトの体細胞は概ね50回くらい分裂するとそれ以上分裂できなくなり、アポトーシスで死んでしまいます。
レチノール(レチナール)やレーザー、上清液に含まれる成長因子も最終的な効果としては全て同じで、細胞分裂を促進させます。
じゃあ、細胞分裂を繰り返したら、体細胞はみんな死んでヒトは生きていけないじゃないか?というのが、「上限に早くに達してしまって細胞老化、成長停止状態になり細胞死するから、数年、十数年、何十年か経ったあとには肌が一気に老化する」という発言の根拠だと思います。
が、しかし、現実にはそうなりません。
それは体細胞は絶えず、幹細胞が供給しているからです。
幹細胞は不等分裂で体細胞を供給する
アルベイズを立ち上げたばかりの頃、僕は知識不足で
「幹細胞は様々な細胞に分化できる増殖能力の高い細胞」
と説明していましたが、勉強をしていて、それが間違いだと分かりました。
幹細胞は体細胞と比べるとほとんど細胞分裂をしません。
分裂スピードが遅いのでヘイフリック限界に到達するのまでに時間がかかります。
つまり、細胞としての寿命が非常に長いです。
幹細胞がほとんど分裂しなかったら体細胞が足りなくなるんじゃないか?と思われるかもしれませんが、よくできたメカニズムがあるので問題ありません。
幹細胞は分裂するときに、直接体細胞に分化するのではなく、
幹細胞⇒幹細胞+TA細胞(前駆細胞)
と自身を複製すると同時に体細胞へ分化するTA細胞の2種類になります。
増殖能力が高いのは幹細胞自身ではなくて体細胞の素になるTA細胞の方です。
TA細胞が頑張ってくれるので幹細胞はたまにしか分裂しません。
その代わり、成長因子を分泌したりして、TA細胞の分裂を応援しています。
幹細胞数の確保
幹細胞は上のように体細胞を作ると同時に自身も複製しているので、体細胞を供給しても数は減りません。
さらに幹細胞は均等分裂
幹細胞⇒幹細胞+幹細胞
という分裂も行っているので、幹細胞の数を増やしてもいます。
幹細胞は全ての体細胞(組織)の素になる細胞で、切らしてしまうと文字通り致命的になるので、数を減らさないように二重の対策が用意してあるわけです。
ヘイフリック限界の正体ーヒトのDNAは完全に複製できないー
DNAにヒトの体(全細胞)の設計情報がコードされているということは皆さんもご存知かと思います。
しかし、DNAが保管されている染色体の端っこは複製する度に短くなります。
DNAが複製されるのは細胞分裂を行う際なので、細胞分裂を行う度に自身のDNAを破壊するという致命的な欠陥をヒトは持っています。
ヘロメアの短縮
こんなとんでもない問題を放っておいたら、ヒトはとうの昔に絶滅しているはずです。
もちろん対策があるので今日も人類は生き残っています。
DNAが完全に複製できない代わりに、端から遺伝情報が破壊されていくのを防ぐために染色体の末端にテロメアという配列を作って遺伝子本体が破壊されないようになっています。
テロメア自体は何の情報を持っていないので、壊れても問題がないDNAです。
しかし、テロメアもDNAを複製する度に短くなっていくので、テロメアはいずれなくなって遺伝子本体が破壊されるようになります。
そうなる前にテロメアがある程度短くなると細胞はアポトーシスを起こして死にます。
体細胞の分裂回数に上限があるのはこのテロメアが短くなるせいです。
テロメアの短縮がヘイフリック限界の正体です。
幹細胞にはヘイフリック限界がない?
上の通りテロメアは細胞分裂の度に短くなるのですが、テロメラーゼという酵素はテロメアを伸ばす事ができます。
普通の体細胞ではこのテロメラーゼは発現していないので、体細胞の分裂回数に限界があります。
一方、幹細胞ではテロメラーゼが発現しているので、分裂回数に上限がありません。
幹細胞が枯渇すると体が維持ができないため、枯渇しないように念入りに対策がしてあります。
まとめ:理論上、幹細胞は枯渇しない
上の通り、理論上は
体細胞には分裂回数に上限があるのでいずれ死ぬが、
体細胞は幹細胞が供給していて、幹細胞は枯渇しないように何重にも対策がしてある
ので、外部刺激で細胞分裂を活性化させても問題はないと僕は考えています。
ただ、
上清液やレチノール、レーザーは最近、使われ始めたものなので数十年後、実際にどうなっているかは数十年経ってみないとわかりません。
まだまだ人類は人体について何も分かっていないと言っていいほど分かっていないので。
上清液や幹細胞治療については、日本国内で行われるようになってから十数年でこれまでに副作用の報告はないそうなので、10年程度はこのような浦島太郎問題は出ないと思います。